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ウクライナ情勢について

弁護士 浅野喜彦

 ウクライナでついに戦争が始まりました。報道によれば、都市への爆撃や市街戦で、罪のない人たちが犠牲になっています。武力侵攻に踏みきったロシアの判断には、共感できません。

 他方、ウクライナをめぐる情勢には、米、英などNATO諸国の思惑や親NATO派政権への武器供与、さらには天然ガス資源をめぐる攻防も関係しているので、単純な二国間関係とはいえないようです。その意味で、この戦争は、ベトナム戦争のような代理戦争の一面も持っています。

 いずれにしても、一番の被害を受けるのは戦場となったウクライナの人たちであり、戦争を起こした、あるいは回避に失敗した為政者たちではありません。

 私は、学生時代にウクライナを旅行したことがあります。ソ連が崩壊して10年ほど経ったころです。キエフの駅についてすぐ、制服の警察官に地下鉄への行き方を尋ねたら、人けのないところへ連れて行かれ、パスポートに不備があるが見逃してやるとか何とかで、賄賂を要求されました。入国にも苦労しましたが、出国の際もたいへんで、国境では、やはりパスポートかビザかに難癖をつけられて、二時間も足止めされたものです。私と同じ電車で到着した100人超の集団は、係官にたばこを配ったり、何人かに一人が荷物入れに隠れて人数をごまかしたりしながら、巧みに出国して行きました。要するに、国全体がまだまだ不安定で、落ち着かない状態だったのでしょう。

 しかし、私の印象では、ウクライナの人たちは全体に温厚で優しかったと思います。トルコ系、東アジア系とみえる顔立ちの人も多く、移民局で列に並んでいた男性は、ウクライナ語がわからない私に片言の英語で親切に通訳をしてくれました。首都キエフの修道院や、リヴィウという町の共同墓地が非常に美しく、印象に残っています。

 ソ連崩壊から現在までの30年間は、ウクライナの人たちにとって苦難の時代でした。しかし同時に、武力衝突や大統領選挙の混乱を乗り越え、平和な国を築こうと努力している過程でもあったと思います。今回の事態は、その希望を打ち砕き、罪のない人たちの命を奪うもので、許せません。

 ウクライナはもともとヨーロッパの中でも経済力の弱い国ですが、この戦争によって、彼らの暮らしはどうなるのでしょう。何とか、一日も早く戦争が終結してほしいと思います。

以上