コラム
column
「ファクトフルネス」について
先日、ニュースの特集で、この10年で日本の治安がどう変化したかという質問に対して、67%もの人が「悪化した」と回答した(警察庁実施のアンケート)という報道がなされていました。確かに、安倍元首相の銃撃や昨今の闇バイトをきっかけとした強盗・強盗殺人事件の報道などを見ていると、なるほどと思わないでもありません。
しかしながら、本当にそうなのでしょうか。
ネット上では、令和3年分までのグラフしか見つけられなかったものの、警察庁の犯罪白書によると、2002年(平成14年)時点で、285万4000件あった認知件数(警察が犯罪として認めた数のこと)が、令和3年では56万8000件に減少しています(添付のグラフ参照)。令和4年は若干増加しましたが、それでも60万1000件です。ピーク時からすると79%減、約5分の1にまで減少しています。実際にも、知り合いの刑務所職員によれば、一時期、過剰収容が問題となっていた拘置所、刑務所でも収容人員が適正基準以下に減少しているとのことです。
では、なぜ、これだけ減少したのでしょうか。
真っ先に浮かぶのはコロナ禍です。しかしながら、コロナ禍は2020年1月から発生しているものの、グラフを見るとその前からずっと減少傾向であり、コロナ禍が減少の原因であるというには無理があります。
次に、冒頭記載のニュース番組では、暗数(被害にはあっているものの、警察に届出をしていない件数)が影響しているのではという視点も述べられていました。例えば、性犯罪だと認知件数の7倍、窃盗でも2倍の暗数があるというような調査結果が述べられていました。ただ、冷静に考えてみると、暗数が問題になるのは昨今だけの問題ではありません。ピーク時である平成14年時点でも、当然、暗数はあったはずです。また、最近になって急に警察に届け出るのをためらうような社会環境にはなっていないと思います。
結論としては、国民の体感(体感治安と呼ぶそうです)とは異なり、実際には犯罪は減少し、世の中は平和になっているということです。さて、皆さんはこの結論に対して、どのようにお感じになるのでしょう?
こうしたことは、結構よくあります。表題の「ファクトフルネス」というのは、同名の著書の作者による造語です。データを基に世界を正しく見る習慣を実現するというのが同書の目的で、私が感銘を受けた書物です。
報道に接して、ときには立ち止まり「本当にそうなの?」と考えてみることをお勧めします。
【参照文献】
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
/ハンス・ロスリング , オーラ・ロスリング他 著
(令和3年版 犯罪白書より)