コラム
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生活保護基準引下げの早急な見直しを!
2013年8月から、生活保護基準の引下げが、3回に分けて実施され、これにより、生活保護世帯の生活保護費が減額されました。
2014年10月27日に、和歌山市内の生活保護利用者らが、生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、生活保護費減額処分の取り消し等を求める訴訟を、和歌山地方裁判所に提起しました。私は、原告ら弁護団の一員として、今回の訴訟に関わってきました。
本年3月24日、和歌山地方裁判所は、生活保護費減額処分を取り消す判決を言い渡しました。
今回の生活保護基準引下げについては、全国の地方裁判所に30の訴訟が提起され、既に19の地方裁判所で判決が言い渡されています。このうち、生活保護費減額処分の取り消しを認めた判決は、和歌山で7例目となりました(-その後、さいたま地方裁判所、奈良地方裁判所においても、生活保護費減額処分取消判決が言い渡されています-)。
厚生労働大臣は、①「ゆがみ調整」(専門家の報告書を踏まえた見直し)②「デフレ調整」(物価の動向を勘案した見直し)などを根拠に、生活保護基準の引下げを行いました。
行政事件訴訟法には、「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と定められています。裁判では、上記厚生労働大臣の判断に、裁量権の逸脱濫用の違憲・違法があるかが争点となりました。
和歌地方裁判所は、「ゆがみ調整」「デフレ調整」ともに、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いており、専門家による生活保護基準部会に諮らないまま調整が行われたことを指摘しました。そして、これらの点を踏まえ、「ゆがみ調整」「デフレ調整」ともに、内容面においても、手続面においても、厚生労働大臣の裁量権の逸脱濫用があり、生活保護法3条、8条2項に反するものとして、違法であると判断しました。
今回の和歌山地方裁判所の判決は、専門家による審議検討を重視する判断をしたうえで、生活保護基準の引下げが違法であると結論付けており、高く評価できます。
今回の訴訟を通じて、私自身、生活保護利用者やその支援者の方々から、厳しい生活実態や不安など、生の声を聴く機会がたくさんありました。例えば、生活保護費の減額により、食事や入浴を控えるなど、生活費のさらなる節約を強いられたり、冠婚葬祭などの社会的な交流を控えざるを得なくなったり、人としての尊厳を傷つけられたと感じている方が多くいました。元々ギリギリの切り詰めた生活を強いられてきた生活保護利用者にとっては、ごくわずかな生活保護費の減額であっても生活に与える影響は大きく、その被害実態を軽視することは決して許されないものでした。
判決言い渡しのあった裁判所のうち、半数近くの裁判所において、今回の生活保護基準引下げを違法とする判決が出ています。このこと自体、我が国のナショナルミニマム(国民的最低限)である生活保護基準への信頼が大きく損なわれているということであり、極めて憂慮すべき事態であって、信頼回復への取り組みは急務といえます。
関係機関は、これまでに積み重ねられた司法判断を重く受け止め、生活保護利用者が置かれている厳しい生活実態を直視し、早急に、真に健康で文化的な最低限度の生活ができる生活保護基準に改定すべきです。